東京地方裁判所 平成元年(特わ)1222号 判決 1989年11月24日
本籍
東京都大田区山王二丁目二一番
住居
同都同区山王二丁目二一番一一号
会社役員
田中隆司
昭和一三年五月二五日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官渡辺咲子出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役一年六月及び罰金一億二〇〇〇万円に処する。
被告人において右罰金を完納することができないときは、金五〇万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。
理由
(罰となるべき事実)
被告人は、株式会社丸五技研の代表取締役であるかたわら、営利の目的で継続的に有価証券売買を行っていたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、右有価証券売買を他人名義あるいは架空名義で行う等の方法により所得を秘匿した上、昭和六一年分の実際総所得金額が七億二八一二万六二七七円(別紙1修正損益計算書参照)であったのにかかわらず、昭和六二年二月一八日、東京都大田区中央七丁目四番一八号所在の所轄大森税務署において、同税務署長に対し、同六一年分の総所得金額が一九二〇万三八五七円でこれに対する所得税額が一一九万六四〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(平成元年押第八七六号の1)を提出し、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額四億九二〇〇万五二〇〇円と右申告税額との差額四億九〇八〇万八八〇〇円(別紙2脱税額計算書参照)を免れたものである。
(証拠の標目)
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官に対する供述調書四通
一 田中脩子、橋本参藏、木村浩敏(二通)、桒野茂の検察官に対する各供述調書
一 収税官吏作成の次の各調査書
1 有価証券売買益調査書
2 支払利息調査書
一 収税官吏作成の領置てん末書
一 押収してある61年分の所得税の確定申告書(平成元年押第八七六号の1)一袋
(法令の適用)
一 罰条
所得税法二三八条一、二項
二 刑種の選択
懲役刑と罰金刑の併科を選択
三 労役場留置
刑法一八条
(量刑の理由)
本件は、営利目的で継続的に有価証券売買を行っていた被告人が、他人名義あるいは架空名義を取引名義として使用するなどして所得を秘匿し、所得税四億九〇八〇万円余を免れたというものであって、その逋脱額は巨額である上、逋脱率は、九九・七五パーセントと高率であり、その動機に特に酌むべき点はないし、その所得秘匿の態様も計画的で、犯情は悪質というほかなく、被告人の刑事責任は重大である。被告人は、本件発覚後、修正申告を行った上、本税のうち、約七七〇〇万円を納付し、反省の意を表明していること、被告人には前科前歴はないこと、その他被告人の家庭及び事業の状況など、被告人のために酌むべき事情も多々認められるのではあるけれども、何分その逋脱税額の未納部分があまりに大きく、その将来の納付の見通しも楽観できないので、被告人に対しては、執行猶予を付するのは相当ではないと考え、主文掲記の刑を量定した次第である。
(求刑 懲役二年六月及び罰金一億五〇〇〇万円)
よって主文のとおり判決する。
(裁判官 稲田輝明)
別紙1
修正損益計算書
自 昭和61年1月1日
至 昭和61年12月31日
田中隆司
<省略>
別紙2
脱税額計算書
昭和61年分 田中隆司
<省略>
資産所得あん分税額計算書
昭和61年分 田中隆司
<省略>